赤の本3 『完璧な赤』〜「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語
2010.10.15
赤の本3 『完璧な赤』〜「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語
(著者 エイミー・B・グリーンフィールド/訳者 佐藤 桂/早川書房/2006年10月初版発行)
この本は、コチニールという赤色染料をめぐる歴史物語ですが、
膨大な資料に基づく事実が克明に記されているため、とても読み応えのあるものでした。
ディズニーランドのアトラクションとしても知られているカリブ海の海賊にとって、
金・銀・財宝以外の戦利品は、この赤色染料−コチニールであり、
むしろコチニールのほうが戦利品としての価値が高かったようです。
「赤」が歴史を動かしていたというその事実を、
以下、本の冒頭部分のみ要約してお伝えします。
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「赤」は、太古の昔から人類にとって神聖な色とされてきました。
ネアンデルタール人は死者に赤土をかぶせて埋葬する習慣をもち、
クロマニヨン人による洞窟壁画は赤い鉄鉱石で描かれました。
しかしながら、これらの「赤」は橙色や茶色に近い、濁った色だったとされます。
人類がその歴史上 求めて止まなかったのは「目の覚めるような鮮明な赤」。
中世ヨーロッパの都市には染色工のギルドが数多く存在していましたが、
それらのギルドは、取り扱う色ごとに細分化されていました。
中でも、最も高等の染色工が所属し、
結束が固かったのが「赤」の染色を専門とするギルドです。
その染色技術は、原料の調達から工程に至るまで秘密結社のごとく守られ、
門外不出のものでした。
というのも、当時のヨーロッパにおいて「赤」は富と権力の象徴であり、
鮮明な赤に染め上げられた絹織物は、
裕福な人々がその権力を誇るものでもありました。
鮮やかな赤は非常に高値で取り引きされたのです。
15世紀半ばにフィレンツェで絶大な権力を誇った銀行家コジモ・デ・メディチ
(1389-1464)はその死後、家族の依頼によって制作された肖像画において、
全身に鮮やかな赤をまとっています。[画像参照]
(16世紀はじめ、ヤコポ・ダ・ポントルモにより制作)
ほぼ時を同じくして16世紀初頭、多くのスペイン人が新大陸に渡り、
メキシコの市場で目にしたものが鮮烈な赤色染料−コチニールでした。
新大陸からヨーロッパにもたらされたコチニールは、その後しばらくの間
金と同等かそれ以上の価値あるものとしてスペインが独占し、
国の財政を支えるものとなりました。
16世紀も後半になると、
コチニール目当ての他国の海賊船が頻繁にスペインの船を襲撃するようになり、
イングランドの海賊がスペイン船から奪ったコチニールは、
一度に20トン以上にもなったとされています。
(物語はまだまだ続きます。ヨーロッパ中で巻き起こる「コチニールは虫か、種子か?」の大論争とスパイの登場、合成染料の登場によるドイツの台頭…続きは実際の本で、じっくりと楽しんでください)
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著者のウェブサイトにも、メキシコ・オアハカ地方のコチニール農園やコチニールで染色された色糸の写真が紹介されています。こちらのHPからAmusementsのコーナーを開いて頂きTravels in Mexicoをご覧ください。
◆ちょこっと豆知識◆
コチニールとは、ウチワサボテンに寄生するカイガラムシ科の虫であり、
雌の体液に含まれるカルミン酸が鮮やかな赤色染料となります。
コチニールの色素は熱や光に対して非常に安定しているため、
天然色素として食品の着色や化粧品に使用されています。